エドワード・ヤン、ホウ・シャオシェンの重厚さをいとも軽やかに突き抜けた、新たな時代を告げる珠玉のデビュー作!

「世界中で圧倒的に評価されているハイクオリティーなアート映画、でもちょっととっつきにくそう……」、当時そんな印象が一般的だった、エドワード・ヤン、ホウ・シャオシェンやツァイ・ミンリャンらのいわゆる“台湾ニューシネマ”の系譜から、突如出現した異端の新人チェン・ユーシュンが、1995年に発表した処女作『熱帯魚』。先達たちのアーティスティックな影響はそこかしこに感じさせつつ、先読みできないストーリーと、これまでにない軽やかさが印象的な、一度観たら忘れられない作品だ。

日本以上の学歴社会、台湾で加熱していく誘拐報道―人々の関心は〈少年は無事か〉から〈少年は無事に入試を受けられるのか〉に変化してゆく

受験戦争にまったくなじめない夢見がちな台北のボンクラ少年。そんな少年をなりゆきで誘拐してしまった、超田舎な一家の、これまた一風変わった面々。誘拐報道がヒートアップする台北がまるで別世界のように、少年は連れ去られた南部の漁村で、白日夢のような不思議な時間を過ごし、そして謎めいた少女と遭遇する。はたして彼は、無事に(?)台北へ戻り、そして高校受験に間に合うことができるのだろうか――。

デジタル修復で今よみがえる、いつまでもみずみずしい感動と驚き!

苛烈な受験戦争、競争社会、そして都会の喧騒に押しつぶされそうな、ささやかな夢見る心を、ポップでオフビートなリズム感、土着的なユーモアとその裏に見え隠れするやさしいまなざしで描き、若い世代から圧倒的な支持を得たチェン・ユーシュン。しかし次作、こちらもいかにも彼らしい恋愛映画『ラブ ゴーゴー』(97)と本作、たった2作品のみを残して、彼はその後長い沈黙に入ってしまう――まるでやりたいことは全てやりつくしてしまったかのように。もちろん、その間も作品の輝きは色褪せることなく、その後の台湾映画に強い影響を与え続けた。『藍色夏恋』(02)や『あの頃、君を追いかけた』(11)など
、青春恋愛映画の傑作群に流れるみずみずしさとイノセンスの源泉が、まさにここにある